残業代請求を給与明細なしで行う方法|利用できる証拠を弁護士が解説

2024年06月04日
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残業代請求を給与明細なしで行う方法|利用できる証拠を弁護士が解説

勤務先に未払いの残業代を請求したいと思っていても、過去の給与明細が手元になくどうすればいいのかわからないという場合があります。

賃金未払いをはじめとする労働トラブルの相談先として、岐阜県のホームページでは労働基準監督署に相談窓口を紹介していますが、証拠がないと行政指導は難しいでしょう。また、残業代請求に関しては、労働基準監督署でも弁護士に相談するよう勧められることが多いです。

ただし、給与明細がなくても複数の証拠を併せて残業時間を証明する、証拠保全手続きを行うなどして、残業代請求ができる可能性があります。この記事は、残業代請求における給与明細の重要性や、給与明細がない場合の対処法などについてベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説していきます。

1、残業代請求における給与明細の重要性とは?

  1. (1)給与明細とは?

    「給与明細」とは、給与の支払額や控除額を計算し、それらを明記した通知書のことをいいます。給与明細は、所得税法において交付が義務付けられており、従業員に交付しないのは違法です。

    また賃金は、毎月1回以上定期日払いの原則(労働基準法第24条2項)が定められているため、雇用された従業員には、勤務先から毎月1回給与明細が交付されます。

    給与明細に記載されているのは、以下の事項です。

    • 勤怠項目:所定労働日数、出勤日数、欠勤日数、有給休暇取得日数、遅刻回数、早退回数、時間外労働の時間(残業時間)
    • 支給項目:基本給、時間外手当(残業代)、通勤手当・資格手当などの各種手当
    • 控除項目:健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、所得税・住民税
    • 課税対象額と差引支給額:いわゆる手取りの給料額
  2. (2)給与明細が残業代請求で重要な理由

    給与明細が正しく作成されている場合、それを見れば、時間外手当(残業代)として支給された額と、実際に支払われるべき金額との差から未払い分を計算することができます。

    したがって、会社に対して未払いの残業代を請求する場合は、毎月の給与明細が重要な証拠となります

    また、給与明細には、所定の労働時間や出勤日数、時間外労働時間(残業時間)が明記されていることが多いため、会社が残業時間として取り扱っている時間がわかります。仮に給与明細の時間外労働時間の記載内容が正しくない場合でも、この時間を超えて業務をしていることを別の証拠により証明できれば、その分の残業代についても会社に請求することができます。

    なお、残業代請求は退職後でも可能です。在職中には気兼ねして残業代を請求できなかったものの、退職を機に未払金を回収したいと考える方も多くいます。退職したあとでも、以前の勤務先に未払い残業代を請求できるので、諦めずに弁護士に相談することをおすすめします。

    ただし現行法では、未払い賃金の請求には「3年」の消滅時効期間があるため注意が必要です。請求すると決めたら、早めに行動に移すようにしましょう。

2、給与明細以外で残業代請求に利用できる証拠とは?

給与明細がなかった場合は、以下を利用して残業代請求できる可能性があります。

  • 雇用契約書
  • 就業規則・賃金規程
  • 源泉徴収票
  • 賃金台帳
  • 日報
  • 給与振込口座の通帳のコピーや入金履歴
  • タイムカード、勤怠管理システムのデータ
  • セキュリティカードの使用履歴
  • グーグルタイムライン等の位置情報記録
  • パソコンの起動終了のログ
  • 交通系ICカードの改札通過時間の履歴
  • (トラックドライバー等の場合)タコグラフ


「雇用契約書」や「就業規則」、「賃金規程」を確認することで、会社と従業員の間の労働契約を確認することができ、どのような労働条件、給与支払い体系になっているのかを把握できます。

「源泉徴収票」とは、1年間に会社から支払われた給与の総額や控除された税金などが記載されている書面です。源泉徴収票は毎年12月(退職した場合には退職時)に、会社から従業員に交付される書類です。

「賃金台帳」とは、従業員の名前や性別、賃金の計算期間や労働日数など従業員への給与支払い状況を記載した書面のことをいいます。会社から交付される書類ではありませんが、従業員が会社に対して開示請求することができます。

3、給与明細がない場合に残業代請求する方法

給与明細が手元にない場合、残業代請求をするにはどうすればいいのでしょうか。

  1. (1)複数の証拠を組み合わせて残業時間を証明する

    まず、「雇用契約書」や「就業規則」、「賃金規程」において、どのように労働条件が合意されているのか確認しましょう。残業代が支払われていないと思っていたものの、みなし労働時間制が採用されていたり、定額扱い(みなし残業代・固定残業代)とされていて、実際の時間外労働・休日労働が、みなし残業時間を上回っていなかったりというケースもあります。

    ただし、残業代を定額払いとしていた場合であっても、「通常の労働時間に対する賃金」にあたる部分と「時間外の割増賃金」にあたる部分とを判別できない場合には、残業代が支払われたことにはならず、会社は別途残業代を支給する義務があります。

    実際に会社から支払われた給料の金額を確認するためには、「源泉徴収票」や「賃金台帳」、「給与振込先口座の入金履歴」などで把握することができます。

    そのうえで、従業員が実際に労働した時間を証明するために、タイムカード、勤怠管理システムのデータ、交通系ICカードの改札通過時間の履歴などが役に立ちます。

    会社に未払いの残業代を請求するためには、「実際、何時から何時まで働いていたのか」を証明できる資料を提出する必要があります。したがって、労働時間を合理的に推認できるものであれば、「家族への退勤のLINEメッセージ」や「上司への報告メール」なども有効なケースがあります。削除せずに保存しておきましょう。
    会社が、上記のようにタイムカード等で労働時間を管理していない場合もあります。その場合は、退職前に弁護士に相談することによって、労働時間の証拠を確保できる可能性があります。

  2. (2)証拠保全手続きを使う

    手元に証拠として利用できそうな資料がほとんどないという場合には、会社側が保有している資料の開示を請求していくことになります。

    コンプライアンスの意識の低い会社であれば、従業員からの開示を拒否する可能性がありますが、最終的に訴訟になった場合、文書提出命令などの方法によって裁判所は会社や第三者が保有する証拠の開示命令を出すことができます(民事訴訟法第219条参照)。

    さらに、会社側の不誠実な対応が心配な場合、証拠保全手続きを申立てることができます。

    証拠保全とは、訴え提起前に行うことができる裁判所の証拠調べのことをいいます(民事訴訟法第234条)。迅速に相手側の証拠を押さえることができるので、会社側に証拠隠滅や改ざんのおそれがある場合は申立てを検討しましょう。

  3. (3)弁護士に相談する

    勤務先や元勤務先に残業代を請求したいのに、給与明細などのめぼしい資料が手元にないという場合には、一度弁護士に相談することをおすすめします。

    現在証拠となりそうな資料がない場合であっても、証拠の収集・保全の方法についてアドバイスを受けられます。

    弁護士に依頼することで、会社への証拠開示の請求や会社への請求などを一任することができ、煩雑な手続きも安心して進めることができるでしょうまた、弁護士に正確な労働時間や残業代を算出してもらえるのもメリットです

    さらに、代理人として弁護士が就任した場合、これまで非協力的だった会社が態度を改めて交渉・話し合いに応じるようになるケースも往々にして存在しています。

4、会社に残業代請求する流れ

  1. (1)会社に内容証明郵便を送る

    未払いの残業代を会社に支払ってもらうためには、まずは残業時間と未払いの残業代が発生していることを説明したうえで、具体的な金額を請求していく必要があります。

    会社へ請求をしていく場合には、「内容証明郵便」を利用することが一般的です。

    「内容証明郵便」とは郵便物の内容について、「いつ、どのような内容のものを、誰から誰にあてて差し出したか」ということを謄本によって証明する日本郵便のサービスです。内容証明郵便によることで、事後的に請求「した・していない」の水かけ論を回避することができ、裁判手続きにおいても請求の事実を証明することができますので、例えば消滅時効時効の成立・不成立について、無用な争いが生じるのを防ぐことができます。

  2. (2)会社との交渉

    会社が残業代の未払いについてなかなか認めず、長期の交渉に発展する可能性もあります。会社と交渉する場合には、保有している知識や交渉力、マンパワーに大きな違いがあります。従業員個人が会社という組織と交渉する場合は、会社にうまく言いくるめられてしまうというおそれもあるため、弁護士のサポートが不可欠といえます。

    会社との交渉が不安だという方は、まずは弁護士に相談されることをおすすめします。

  3. (3)労働審判、訴訟

    交渉では残業代が支払われないという場合には、労働審判を申し立てたり、訴訟を提起したりする必要があります。

    労働審判手続きは、労働審判官(裁判官)1名と労働審判員2名で組織する労働審判委員会が行います。労働審判員は、雇用関係の実情や労使慣行などに詳しい知識と豊富な経験を持つ者の中から任命され、中立かつ公正な立場で審理・判断に加わります。

    労働審判は、原則として「3回」以内の期日で審理を終了することになっているため迅速な解決を目指すことができます。

    労働審判に対して異議申立てがされた場合には、事件は通常訴訟に移行することになります。
    訴訟になった場合には、口頭弁論期日が指定され、当事者双方が証拠に基づいて主張・立証を行うことになります。訴訟においても、裁判官から和解提案がされることが多いですが、それでも和解合意に至らなかった場合、終局的には裁判官による判決によって原告の請求が認められるか否かを判断してもらうことができます。

5、まとめ

以上、残業代請求において給与明細は重要な証拠となることを解説してきました。給与明細がお手元にない場合には、他の証拠を複数組み合わせて残業時間や残業代を明らかにしていくことになります。

ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスには、労働問題の実績がある弁護士が在籍しています。給与明細がないからといって諦める必要はありません。未払いの残業代があってお悩みの方は、まずはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています