示談書が無効になる場合はある? 無効となる条件や作成の注意点
- その他
- 示談書が無効になる場合
離婚や交通事故などを解決するにあたって、当事者間で「示談書」を作成することがあります。
示談書は、法的な問題を終局的に解決する書面ですが、不備があると、紛争の終局的な解決ができないおそれがあります。とくに示談書が無効になったり、後になって相手から取り消されてしまうと、深刻なトラブルを招きかねないので、絶対に避けなければいけません。
本コラムでは、示談書が無効にされたり、後で取り消されたりする原因や、示談書の作成上の注意点について、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。
1、示談書とは?
「示談書」は、法的紛争を和解によって解決するために、当事者間で作成する和解合意の書面です。「示談契約」などと呼ばれることもあります。
以下では、示談書の概要を解説します。
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(1)法律トラブルの解決方法を記載した書面
示談書には、法的紛争の解決方法をまとめて記載します。
示談書記載の内容は、当事者の有効な合意に基づき、各当事者に対して、法的拘束力を有します。
なお、示談書は当事者が作成する場合もあれば、公正証書の方式で公証人が作成する場合もあります。相手方が約束した金銭の支払をしないときに、直ちに強制執行できるようにしたい場合は、公正証書の方式で作成をご検討ください。詳しくは、弁護士にご相談ください。 -
(2)示談書が締結される場合の例
示談書が締結される例としては、次のような場合が挙げられます。
- 不倫相手に対する慰謝料請求
- 交通事故の被害者による損害賠償請求
- 近隣トラブルの解決
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(3)示談書を作成・締結するメリット
示談書を作成・締結するメリットは、法的紛争を早期かつ柔軟に解決できる点です。
関係がこじれて協議によっては解決できなくなってしまった場合には、訴訟などの法的手続も選択肢になります。
しかし、特に訴訟は解決までに1年以上を要することも珍しくない手続きです。
当事者間で協議して早期に示談書を作成できれば、法的手続によることなく、当事者間で早期に紛争を終結させることができます。
また、示談書には多くの場合、後述する「清算条項」が規定されるため、あとから紛争を蒸し返すことができなくなります。この点も、
示談書を作成する大きなメリットといえます。 -
(4)示談書に規定される主な条項
示談書の代表的な条項は、以下の通りです。
- ① 示談金の支払いに関する条項
金銭的解決として、示談金の金額・支払時期・支払方法などを定めます。 - ② 秘密保持に関する条項
示談の内容などについて、第三者に口外しないことなどを定めます。
当事者のプライバシーや営業上の秘密を守るほか、互いに誹謗中傷をしないことを約束する目的で規定されることもあります。 - ③ 清算条項
示談書に記載された内容以外に、当事者間に債権債務関係が存在しないことを確認する条項です。
対象となる法的紛争に関することに限定する場合もあれば、当事者間に何らの債権債務関係も存在しないことを定める場合(この場合を特に「包括清算条項」といいます。)もあります。
- ① 示談金の支払いに関する条項
2、示談書が無効になる場合・取り消される場合
示談書は法的紛争を解決するために作成しますが、内容や締結の経緯によっては無効となり、または後から取り消されることがあります。
そうなってしまうと、示談書を作成した意味が完全に失われてしまいますので、そのような事態は絶対に避けなければいけません。
以下では、示談書が無効になる場合や取り消される場合の例を解説します。
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(1)示談書の内容が不明確な場合
示談書の文言及び内容は、一義的に明確でなければいけません。
示談書の条項が不明確であり、二通り以上の意味に解釈できてしまう場合や、そもそも言語として解読できない場合などには、その条項が無効になる可能性があります。その条項を除外すると、示談の内容全体が成り立たないような重大な欠陥になる場合には、示談書全体が無効となることもあります。
示談書の条項が無効にならないとしても、内容が不明確で複数の解釈が成り立つ場合には、その解釈、適用を巡って双方当事者の新たな紛争を生むおそれもあります。示談書の文言及び内容は必ず、一義的に明確なものにしましょう。 -
(2)示談書の内容が公序良俗に反する場合
示談書の条項が公の秩序または善良な風俗に違反する場合、その条項または示談書全体が無効となる可能性があります(民法第90条)。
合意内容が公序良俗違反に当たる場合には法的に承認することはできないので、そのような合意は無効とされています。 -
(3)示談書の内容が法律の強行規定に反する場合
法律の規定には、契約等によってこれと異なる内容を定めることができる「任意規定」と、異なる内容の合意をしても強制的に適用される「強行規定」の2種類があります。
示談書で法律の強行規定に反する条項を定めた場合、その条項は無効となります。
以下は、強行法規に反するものの一例です。- 消滅時効の利益をあらかじめ放棄する旨の条項(民法第146条)
- 上限利率を超えて金銭消費貸借の利息を定める旨の条項(利息制限法第1条)
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(4)錯誤・詐欺・強迫によって示談書が締結された場合
示談書が錯誤・詐欺・強迫によって作成された場合、示談書全体が取り消しの対象となります。
- ① 錯誤(民法第95条第1項、第2項)
錯誤とは、当事者が、示談書の重要な部分について、事実と異なる認識を持っていたことをいいます。
また、示談書を締結する動機など、合意の基礎となる事情に事実との相違があった場合にも、その事情を合意の基礎とすることについて、相手方に表示されていた場合には、取り消しが認められます。
ただし、錯誤がその当事者の重大な過失によるものである場合には、相手方に悪意もしくは重過失がある場合、または相手方がその当事者と同一の錯誤に陥っていた場合を除いて、取り消しをすることができません(同条第3項)。 - ② 詐欺(民法第96条第1項)
詐欺とは、一方の当事者が、相手方又は第三者に騙され、事実と異なる認識をしたことによって示談書を作成したことをいいます。 - ③ 強迫(同)
強迫とは、一方の当事者が、相手方又は第三者から害悪を告知され、それをおそれたことによって、示談書を作成したことをいいます。
- ① 錯誤(民法第95条第1項、第2項)
3、不備のない示談書を作成するための注意点
示談書の作成によって法的紛争を終局的に解決するには、上述のような示談書の不備をなくす必要があります。
そのために、以下の点に注意して示談書を作成しましょう。
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(1)規定すべき条項を詳しく分析・検討する
示談書に規定する内容は、個々の事情によって異なります。
規定に漏れがあると、法的紛争を終局的に解決できなくなるおそれがあります。
事前によく分析・検討を行い、必要な事項の漏れがないようにしましょう。 -
(2)法的に無効な条項がないか確認する
公序良俗に反する条項・法律の強行規定に反する条項は、示談書に定めたとしても法的に無効です。
示談書に無効な条項が含まれていると、予想外の不利益を受けるおそれがあります。
示談書を締結する際には、無効な条項が含まれていないか、十分に確認しましょう。 -
(3)明確な文言で記載する
条項の解釈を巡るトラブルや、条項そのものが無効になってしまう事態を防ぐために、示談書は明確な文言によって作成する必要があります。
具体的には、「二通り以上の意味に解釈されないようにする」「言語文法上の不備がないようにする」といった点を意識して、示談書の文言を作成しましょう。 -
(4)示談書締結の意思を相互に確認する
示談書を締結する意思表示に問題がある場合、錯誤・詐欺・強迫により、後に意思表示が取り消されてしまうおそれがあります。
示談書が取り消される場合、法的紛争が蒸し返されることは避けられません。
示談書の取り消しを防ぐためには、締結の段階で意思確認を慎重に行って、その記録を残しておくことが大切です。
締結前後のやり取りなども保存しておくとよいでしょう。
4、示談書の作成は弁護士にご相談ください
法的紛争の終局的な解決には、内容・形式の整った示談書を作成が不可欠です。
弁護士は、知識と経験に基づく文書作成技術を活用して、明確な文言により不備のない示談書を作成することができます。依頼者の事情や希望を盛り込んで、示談書の内容を柔軟に組み立てることもできます。
5、まとめ
ベリーベスト法律事務所にご相談いただければ、弁護士が丁寧なヒアリングと分析や検討を行ったうえで、法的に不備のない示談書の作成をサポートいたします。
法律トラブルの相手方との示談を検討されている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています