結婚前の預金は財産分与でどうなる? 対象になるケースや注意点を解説
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令和5年の政府統計によると、岐阜県では2602件の離婚が発生しました。
離婚の際、夫婦で築き上げた財産を分け合う「財産分与」を行いますが、結婚前の預金は、“特有財産”として原則、財産分与の対象外となります。
結婚前の預金を守るために、共有財産と特有財産の違い、注意点や取り扱いについて知っておきましょう。ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。


1、結婚前の預金は原則、財産分与の対象外
結婚前に貯めた預金は、「特有財産」として、原則として財産分与の対象外になります。
財産分与の基本と共に、「特有財産」と「共有財産」についてみていきましょう。
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(1)財産分与とは何か
婚姻期間中に夫婦の協働によって築いた財産を離婚時に分けることを「財産分与」といいます。割合は夫婦で自由に決めることができますが、2分の1ずつに財産を分けるのが一般的です。
離婚時の財産分与は、精神的にも金銭的にも大きな影響を与えるため、事前に十分に理解し、適切な手続きを踏むことが大切です。 -
(2)共有財産と特有財産の違い
財産分与の対象になる財産を「共有財産」といいます。
共有財産の主な例は以下のとおりです。一般的に共有財産となるもの
- 家や土地などの不動産
- 現金や預貯金
- その他経済的価値がある動産(家具や家電、宝飾品など)
- 保険
- 退職金
婚姻期間中に築いたこれらの財産は、たとえ財産の名義人が片方のみだったり、片方が専業主婦(夫)だったりしたケースでも、婚姻中に獲得したり、積み立てたものであれば、ふたりで協力して築いた共有財産とみなされます。
一方、婚姻期間中に夫婦で協働して築いたとはいえない財産は「特有財産」と呼ばれ、財産分与の対象にはなりません。「結婚前の預金」は文字通り結婚前の独身時代の預金です。婚姻期間中に協働して得た財産ではない以上、原則として財産分与の対象外になります。
また、別居期間中に増えた財産や、親や親族から得た相続・贈与も特有財産であるため財産分与の対象とはなりません。
2、結婚前の預金が財産分与の対象になり得るケース
結婚前の預金は原則として財産分与の対象にはなりませんが、例外があります。
例外的に結婚前の預金が財産分与の対象になるケースについてみていきましょう。
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(1)結婚前の預金を住宅購入の頭金や生活費に充てていた
1つ目は「結婚前の預金を住宅購入時の頭金や生活費に充てていた」というケースです。
結婚前の預金から出した頭金であっても、財産分与対象外となる可能性はあります。
ただし、住宅の現在の評価額が購入時より大きく下回っている場合は住宅の評価額と同様に頭金も減額調整しなければならず、結果として頭金を全額は回収できないケースもあります。
一例を挙げると、以下のような減額調整を行ったうえ、財産分与を行うケースは珍しくありません。住宅の頭金に結婚前の預金(特有財産)を使っていた場合の財産分与
- 住宅購入額:5000万円
- 頭金:1000万円(夫の独身時代の貯金)
- 離婚時の住宅の評価額:2000万円 40%の下落
現在の頭金の評価額=400万円
住宅評価額2000万円-400=1600万円÷2=800万円
- 妻の財産分与:800万円(共有財産)
- 夫の財産分与:800万円(共有財産)+400万円(特有財産)=1200万円
また、結婚前から持っている口座の預金を結婚後の生活費等に使い続けていると結婚前の預金と結婚後の預金の区別がつかなくなるため、共有財産とみなされる可能性があるでしょう。
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(2)婚姻期間が長期間経過している
2つ目は「婚姻期間が10年以上あるなど、長期間経過している」というケースです。
婚姻期間が長期間経過している場合でも、結婚前の預金であれば、理論上は特有財産として主張可能です。
しかし、長期間の経過により、結婚前の預金の特定や証明が難しくなります。金融機関の取引履歴はさかのぼるのに限度があるため、婚姻期間が長ければ長いほど結婚前の預金額が確認できず、結果として結婚前の預金も含めて財産分与することになってしまうケースもあるのです。
このように、本来特有財産であるはずの財産を共有財産として財産分与しなければなりません。
それを防ぐために「夫婦財産契約」という婚前契約書を交わしているケースもありますが、そのようなケースは非常に稀ですから、財産分与を余儀なくされてしまうこともあり得るでしょう。
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3、結婚前の預金を財産分与から守るための注意点
結婚前の預金が財産分与の対象にならないための注意点を4つご紹介します。
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(1)主張だけではなく、結婚前の預金であることがわかる証拠が必要
結婚前の預金が財産分与に含まれないことを証明するためには、口頭での主張だけでは不十分です。
「それは結婚してからの預金だ」と主張された場合に備えて、結婚前の預金であることがわかる証拠を用意しておくことが大切です- 結婚前の預金残高が記載された通帳
- 結婚前の口座の取引履歴(銀行のオンラインサービスで履歴など)
- 結婚前の給与明細や源泉徴収書
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(2)金融機関の取引履歴は短い場合、10年前までしか得られない場合がある
金融機関の取引履歴を確認する際、履歴が遡れる期間には限りがあります。
金融機関の取引履歴は5~10年前まで、オンラインバンキングだと閲覧が1~5年という短い場合もあります。
なお、取引明細書を請求することで、さらに古い履歴まで確認できるケースもありますが、その場合でも、手数料や時間がかかるので注意が必要です。 -
(3)結婚前の預金をギャンブルや借金の返済に使われていた場合は、財産分与において考慮してもらえる可能性がある
配偶者に自分の結婚前の預金を勝手にギャンブルに使われたり、配偶者個人の借金(=生活のための借金ではないもの)の返済に無断で使われたりした場合は、そのことが財産分与において考慮される可能性があります。
具体的には、財産分与割合を5:5ではなく6:4にしたり、勝手にギャンブル等に浪費された金額分、こちらが多く財産分与を受け取るようにするなどの調整が考えられます。
ただし、結婚前の預金を勝手に「生活費」に使われていた場合は、家庭の共同の支出と見なされるため、財産分与において調整が認められる可能性は低いでしょう。 -
(4)財産分与の内容は公正証書を作成したほうがよい
離婚協議にて財産分与の内容が決まったら公正証書を作成することをおすすめします。
結婚前の預金について話し合いで合意できていても、後から「やっぱりあのお金は財産分与の対象なのではないか」と配偶者から主張されてしまうと再度話し合いをしなければなりません。また、財産分与に合意をしても相手に合意内容を反故にされてしまって、財産分与を合意内容通りに受け取ることができないというケースもあるため、合意内容を書面にすることが大切です。
また、書面は自分達で手作りした離婚協議書ではなく証拠能力が高い「公正証書」にすることで、後にトラブルになるリスクを抑えることができます。
さらに公正証書では、強制執行を受けることに合意する旨の文言(強制執行認諾文言)を入れておくと、訴訟を経ることなく強制執行手続きをとることが可能です。
たとえば、離婚後に相手が合意したはずの財産分与金の支払に応じない場合に、裁判所に強制執行を申し立てることで、訴訟をせずとも相手の財産を差し押さえることができます。
4、離婚時のトラブルを弁護士に相談するメリット3つ
離婚時のトラブルは財産分与に限らず、弁護士に相談することをおすすめします。離婚時のトラブルを弁護士に相談するメリットを3つみていきましょう。
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(1)離婚調停への対応や公正証書の作成など煩雑な手続きを頼める
弁護士に相談するメリットの1つ目は「離婚調停や財産分与調停、公正証書の作成など煩雑な手続きを任せられる」ということです。
財産分与について揉め、裁判外の離婚協議では合意できない場合、家庭裁判所での離婚調停や財産分与調停にて決める必要があります。
また、調停は相手方から申し立てられることもあります。
こういったときでも、弁護士がついていれば、調停の場でも自分が不利にならないように主張・反論をしてもらい、必要な証拠を提出することで、ご自身の権利を守ることができます。
また、公正証書を作成するためには、相手方と事前におおまかな合意をして、日程調整を行ったうえで、揃って公証役場に行き公証人と打ち合わせをして、後日また当事者がそろって公証役場に行く必要があります。
弁護士に依頼すれば、公証人との打合せや相手方との連絡、自分に損のないようにするための条項案の調整など、煩雑な手続きを任せることができます。 -
(2)財産分与以外のトラブルにも対応できる
弁護士に相談するメリットの2つ目は「財産分与以外のトラブルにも対応できる」ということです。
離婚時に話し合わなければならないのは財産分与だけではありません。離婚すること自体に同意が得られていない場合は勿論のこと、子どもがいる場合は親権者、養育費、面会交流について話し合う必要がある他、離婚原因次第では慰謝料について話し合う必要もあります。
これらの財産分与以外の離婚条件について揉めた際にも、弁護士に依頼をすることで早めに解決できる可能性が高まるでしょう。 -
(3)配偶者との交渉を任せられる
弁護士に相談するメリットの3つ目は「配偶者との交渉を任せられる」ということです。
離婚条件に関する話し合いを当事者だけで行うとトラブルになりやすく、解決まで時間がかかる場合もあります。
弁護士に交渉を任せることで話し合いも円滑になる可能性が高まります。
また、離婚したい相手なのですから、そもそも面と向かって話すこと自体がストレスになることもあるでしょう。
こういった場合には、モラハラやDVを受けるリスクを回避しながら、精神的な負担を減らす意味で、弁護士に依頼するのもよいでしょう。
話し合いがこじれると調停や裁判といった裁判手続きになることも見据えて、早めに弁護士に相談することをご検討ください。
5、まとめ
結婚前の預金は、原則として財産分与の対象にはなりません。ただし、それを証明する必要がありますし、婚姻関係が長い場合や結婚前の預金を生活費に充てている場合などは結婚前の預金か結婚後の預金か判断しづらい可能性もありますので、特有財産の主張をしたい場合は、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談すれば口座に残っている預金が共有財産、または特有財産なのか判断ができ、配偶者との交渉や煩雑な手続きなども任せることが可能です。
結婚前の預金を財産分与から守れるのか不安な方やお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士にご相談ください。
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