労災でいつまで休める? 休業補償を受けられる期間と金額
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令和4年に岐阜労働基準監督署の管轄内で発生した労働災害による死傷者数は1379人でした。
労働者が業務中や通勤中にケガをしたり、業務上の原因で病気になったりした場合、労災保険給付を受給できます。労災保険給付には、労働者の療養に必要な費用を賄うための療養補償給付、休業中の所得補償のための休業補償給付などがあります。労働者は、労災事故でケガや病気になっても、このような給付のおかげで、安心して生活できます。
もっとも、休業があまりに長くなると、会社から解雇される可能性がある点に注意が必要です。療養の状況をふまえつつ、医師や弁護士に相談しながら復帰の時期を見定めましょう。
本コラムでは、労災事故に遭った労働者が仕事をいつまで休めるのかについて、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。
1、労災によるケガや病気の治療中、いつまで休める?
業務中や通勤中にケガをしたり、業務上の原因で病気になったりした労働者は、その療養のために仕事を休むことができます。
労災の療養のために休業中の労働者については、労働基準法によって解雇が制限されています。
休業が長期間に及ぶ場合でも、解雇は避けられることが多いといえます。
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(1)業務災害による休業期間中は、原則として解雇禁止
業務上の原因でケガや病気を負った労働者については、療養のための休業期間およびその後30日間の解雇が原則として禁止されます(労働基準法第19条第1項)。
ただし、使用者が打切補償を支払う場合や、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合は、例外的に、上記の期間中であっても解雇が認められます(同項但し書き)。
他方で、業務災害による休業期間の上限は、とくに設けられていません。
したがって、業務災害で療養する労働者は、長期間にわたって休業しても解雇されない可能性もあります。 -
(2)3年以上休業すると、打切補償によって解雇される可能性がある
業務災害による療養中の労働者についても、使用者は「打切補償」を行えば、特段の事由がない限り解雇できます(東京高裁平成22年9月16日判決参照)。
打切補償を行うことができるのは、療養開始後3年を経過しても、被災労働者の負傷または疾病が治らない場合です。
この場合、使用者は労働者に対して平均賃金の1200日分の打切補償を行うことで、労働基準法に基づく補償の義務を免れるとともに、被災労働者を解雇できるようになります。
なお、使用者が自ら打切補償を行わない場合でも、療養開始後3年を経過した日以降に被災労働者が傷病補償年金を受給している場合は、打切補償が支払われたものとみなされ、労働基準法第19条第1項の規定の適用が解除されるので、解雇が可能となります(労働者災害補償保険法第19条)。 -
(3)通勤災害の場合は、長く休むと解雇のリスクが上がる
業務上の原因による労災(業務災害)とは異なり、通勤中に発生した労災(通勤災害)については、療養期間中の解雇制限が定められていません。
したがって、通勤災害で療養中の労働者については、休業期間の長短にかかわらず、通常の労働者と同様の要件を満たせば解雇が認められます。
この場合であっても、解雇権濫用の法理により、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇」は無効とされています(労働契約法第16条)。
通勤災害によって休業に入ったことを理由として直ちに解雇することは、認められません。
しかし、通勤災害による療養期間が長期間になると、解雇が適法と認められる可能性が次第に高まってしまうので注意が必要です。
2、労災保険の休業補償給付によってカバーされる損害の範囲
労災によって休業している労働者は、労働基準監督署への請求により、労災保険給付の一種である「休業補償給付」を受給できます(通勤災害の場合は「休業給付」)。
休業補償給付によってカバーされるのは、休業4日目以降の平均賃金の80%相当額であるため、休業期間中の賃金全額がカバーされるわけではありません。
ただし、不足分については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
3、労災保険の休業補償給付に打ち切りはあるのか?
労災保険の休業補償給付は、治ゆの診断を受けると打ち切られます。
また、労災による負傷・疾病が傷病等級第1級から第3級に該当する場合、療養開始後1年6か月を経過すると「傷病補償年金」に切り替えられます(通勤災害の場合は「傷病年金」)。
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(1)治ゆ又は症状固定と診断されると、休業補償給付は打ち切られる
労災保険による休業補償期間は、休業4日目から、医師による治ゆ又は症状固定診断を受けるまでです。
「治ゆ」とは、怪我が治ったということです。
「症状固定」とは、症状が残っており治ってはいないものの、医学上一般に認められた医療を行っても、その効果が期待できなくなった状態のことをいいます。「症状固定」と呼ばれることもあります。
治ゆ又は症状固定の診断が行われた時点以降については、休業補償給付が支給されません。
症状固定以降の休業等に伴う逸失利益は、障害補償給付(通勤災害の場合は障害給付)によって補償されることになっています。 -
(2)傷病補償年金に切り替えられることがある
傷病等級第1級から第3級に該当する負傷・疾病が1年6か月以上治らない場合は、労働基準監督署長の職権により、休業補償給付が傷病補償年金に切り替えられます。
傷病補償年金の金額は、傷病等級に応じて以下の通りに定まっています。
傷病等級 傷病(補償)年金 傷病特別年金 傷病特別支給金※一時金 第1級 給付基礎日額の313日分 算定基礎日額の313日分 114万円 第2級 給付基礎日額の277日分 算定基礎日額の277日分 107万円 第3級 給付基礎日額の245日分 算定基礎日額の245日分 100万円 ※給付基礎日額:原則として、労働基準法上の平均賃金。基本給や月例の手当などに対応
※算定基礎日額:労災発生前1年間に支払われた、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金の総額を、その期間の暦日数で割ったもの。賞与などに対応
4、労災について弁護士に相談すべきケース
被災労働者が受けた損害は、労災保険給付による補償を受けるだけでなく、会社に対しても、使用者責任(民法第715条第1項)や安全配慮義務違反(労働契約法第5条)に基づく損害賠償を請求できる場合があります。
とくに以下のような場合には、会社に対して損害賠償を確実に請求するために、お早めに弁護士へご相談ください。
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(1)労災保険給付が不十分な場合
労災保険給付は、被災労働者に生じた損害全額を補塡(ほてん)するものではありません。実際に受けた損害からすれば、労災保険給付が不十分であることは、よくあります。
とくに休業補償給付は、休業期間中の賃金の一部しか補填されないため、休業前に比べて生活が苦しくなることもあります。
労災保険給付の受給期間が長くなるような重大事故の場合には特に、深刻です。そのような場合には、会社に対する損害賠償請求を検討するために、弁護士にご相談ください。 -
(2)労災による損害が多額の場合
労災によるケガや病気が完治せず後遺症が残った場合や、被災労働者が死亡した場合には、本人や遺族に多額の損害賠償請求権が発生します。
この場合であっても、労災保険給付では損害額の一部しか補填されません。
損害額が多額の場合は、不足額も高額になることが予想されます。
不足額を受け取るためには、会社に対する損害賠償請求をする必要があります。
労災によって多額の損害を被った方は、弁護士への相談を積極的にご検討ください。 -
(3)労災事故の原因が会社の不注意にあると考えられる場合
業務上発生する労災事故の中には、会社の安全管理体制の不備など、会社の不注意が原因のものがあります。被災労働者としては、金銭的な問題以上に、会社に対する憤りを感じることもあるでしょう。そのような場合でも、会社の責任を追及するには、事実の調査や法的な分析など、多くの準備が必要になります。適切な法的請求を行うためには、弁護士への相談をお勧めします。労働基準監督署などにも相談できますが、役所ができることにはおのずから限界があります。労働基準監督署の方からも、弁護士への相談を勧められるケースがあるようです。
5、まとめ
労働災害に遭った労働者は、労災保険の休業補償給付を受けながら治療に専念することができます。
業務災害の場合、療養期間中およびその後30日間の解雇は原則禁止です。
ただし、打切補償や傷病補償年金の受給開始により、解雇制限が解除されることがあります。
また、通勤災害の場合には業務災害のような解雇制限が設けられていません。
療養期間があまりにも長引いた場合は、解雇される可能性が高まることに注意が必要です。
労災保険給付は、損害全額の補填には不足しており、特に損害が多額になる場合は、会社に対する損害賠償請求を検討する必要が生じます。そんなときは、弁護士に相談することをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、労災に関するご相談を多数扱った実績があります。
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