個人再生が連帯保証人に与える影響とは? 迷惑をかけない方法はある?
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裁判所が公表している司法統計によると、令和2年に岐阜地方裁判所に新たに申し立てのあった個人再生事件(小規模個人再生、給与所得者等再生)の件数は、160件でした。安定した収入があることが要件となりますので、破産事件よりも件数は少ないですが、それでも一定数の方が利用しています。
債務整理のうち個人再生の手続きを利用することによって、借金総額を大幅に減額したうえで、分割で返済をしていくことが可能になります。個人再生は、借金減額効果の大きい手段ですが、連帯保証人がいる債権を個人再生の手続きに含める場合には、注意が必要な点がいくつかあります。
今回は、個人再生が連帯保証人に与える影響について、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。
(出典:令和2年司法統計年報第4表)
1、連帯保証人と保証人の違い
連帯保証人と保証人は、主債務者が返済を怠った場合に、主債務者に代わって返済をするという点では共通しています。しかし、連帯保証人と保証人とでは、以下のような違いがあります。
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(1)催告の抗弁
催告の抗弁とは、債権者からの請求に対して、「まずは、主債務者に対して請求してほしい」と、主張できる権利のことをいいます。保証人には、この催告の抗弁が認められていますが、連帯保証人の場合には認められていません。
そのため、債権者が主債務者に請求をすることなく、連帯保証人に請求したとしても、連帯保証人はこれを拒むことができません。 -
(2)検索の抗弁
検索の抗弁とは、債権者が主債務者に資力があるにもかかわらず、保証人に請求した場合に、「主債務者の財産を差し押さえてください」と主張することができる権利のことをいいます。保証人には、検索の抗弁が認められていますが、連帯保証人には検索の抗弁は認められていません。
よって、主債務者に返済できるだけの十分な資力があったとしても、債権者から請求された場合には、連帯保証人はそれに応じなければなりません。 -
(3)分別の利益
分別の利益とは、保証人が複数いる場合には、債務の全額ではなく保証人の人数に応じて案分した金額だけ責任を負えばよいことをいいます。保証人には、分別の利益が認められていますが、連帯保証人となった場合には、分別の利益は認められていません。複数の連帯保証人がいたとしても、債権者から請求された場合には、債務の全額を支払う必要があります。
2、個人再生は連帯保証人に影響する
主債務者が個人再生手続きをすることによって、連帯保証人にどのような影響が及ぶのでしょうか。以下では、個人再生の概要と連帯保証人への影響を説明します。
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(1)個人再生の概要
個人再生とは、裁判所から再生計画の認可を受けることによって、借金を大幅に減額することができ、減額後の借金を原則3年(最長5年)で分割返済していくという手続きです。
たとえば、借金の総額が600万円ある人が個人再生の手続きを利用した場合には、再生計画上、借金総額が5分の1に減額されますので、120万円を支払っていくことになります。3年間の分割払いとすると、月々約3万円の負担で済むことになります。自己破産のように借金をゼロにする効果はありませんが、大幅な減額が可能になるのが個人再生です。
また、個人再生の手続きにおいて住宅資金特別条項、いわゆる「住宅ローン特則」を利用することによって、本来であれば借金の返済のために処分することになる自宅を手放すことなく借金の整理をすることが可能になります。住宅ローンについては、減額の対象にはなりませんが、他の借金を整理することによって、これまで難しかった住宅ローンの支払いに手が回るようになります。
このように、個人再生は、再生計画に従った、一定の範囲の借金返済を伴う債務整理となります。そのため、将来的に継続または反復した収入があることという要件を満たさなければなりません。 -
(2)連帯保証人への影響
主債務者が個人再生をした場合には、連帯保証人に以下のような影響が生じます。
① 債権者からの請求が連帯保証人にいく
通常は、主債務者が金融機関や貸金業者などから借り入れる際に、個人再生の手続きに着手した場合には、期限の利益(期限までに借金を返済すればよいという債務者の権利)を失うといった条件が設けられています。
そのため、債権者は、連帯保証人に対して、借金の一括返済を求めることが可能になるのです。この場合には、保証人に認められる催告の抗弁も失われていますから、債権者は、保証人に対しても、同様の請求をすることが可能となります。
② 連帯保証人の保証債務は減額されない
主債務者の債務は、再生計画に従って金額が大幅に減額されますが、個人再生によって借金の減額を受けたとしても、連帯保証人の保証債務が減額の範囲に縮小することはありません。
そのため、連帯保証人の負担は非常に大きいといえます。
③ 連帯保証人は主債務者に求償できない
連帯保証人が主債務者に代わって、債権者に返済をした場合には、返済した金額を支払うように主債務者に求めることができます。このような権利を「求償権」といいます。
しかし、個人再生の場合に連帯保証人から主債務者に対する求償を認めると、個人再生によって借金を減額した意味がなくなってしまいます。そのため、個人再生をした主債務者に対しては、連帯保証人は求償権を行使することができず、再生手続開始後に、債権者に全額の弁済をした場合に限り、債権者に代わって、再生手続上の権利を行使できるにとどまります。
3、連帯保証人がいる借金だけ返済すればよい?
個人再生によって連帯保証人に迷惑がかかることから、「連帯保証人がいる借金だけを先に返済してしまえばよいのでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、再生手続きにおいては、弁済の原資がすべての債権を満足させるに足りないことを前提に、すべての債権者に対する弁済が平等に行われるべき(債権者平等の原則)とされています。再生手続上のルールに反するかたちで一部の債権者のみに対して優先的に弁済をすることは、「偏頗(へんぱ)弁済」とみなされます。再生手続開始前に偏波弁済が判明した場合、申し立てが棄却される可能性があります。また、再生手続開始後に偏頗弁済をしてしまった場合には、その金額が清算価値に上乗せされ、再生計画において弁済されるべき金額が増える可能性があります。
また、偏頗弁済の内容が他の債権者を著しく害するようなものであった場合には、個人再生手続が廃止されてしまうリスクもあります。
そのため、再生手続のルールに反して、連帯保証人がいる借金だけを優先的に返済するということは絶対に行ってはいけません。
4、連帯保証人も返済できない場合
連帯保証人も返済が難しい場合には、連帯保証人も以下のような債務整理を検討する必要があります。
- 任意整理
任意整理とは、債権者との交渉によって、借金の減額や支払い方法の変更を認めてもらう方法です。自己破産や個人再生のように裁判所を通す必要はありませんので、一部の債権者を除いて債務整理をするということも可能です。そのため、連帯保証人が他にも借金を負っていたとしても、主債務者の個人再生によって請求されている借金だけを対象にすることもできます。
もっとも、任意整理は、あくまでも交渉によって借金を整理する方法ですので、自己破産や個人再生のように法的効力はありません。そのため、借金の金額によっては、任意整理では難しい場合もあります。 - 自己破産
自己破産とは、裁判所から免責決定を受けることにより、借金をゼロにする手続きです。借金の負担から解放されるという点で、借金問題の根本的な解決が可能となる方法といえます。
もっとも、借金がゼロになるという大きな効果と引き換えに、自己破産では、一定以上の資産を有している場合には、すべて処分して債権者への返済に回さなければなりません。借金の返済ができず、資産もないという方であれば特に問題はありませんが、自宅、車、預貯金、保険など、価値が高く換金可能な資産を有している方にとっては大きなデメリットとなります。 - 個人再生
連帯保証人が個人再生をする場合にも、主債務者について説明したのと同様、返済総額を減額することが可能になります。
5、まとめ
連帯保証人がいる借金がある場合には、主債務者が個人再生の手続きを始めると、連帯保証人に一括返済請求が届く、など多大な迷惑がかかることになります。親族などが連帯保証人になっている場合には、関係がこじれないために、個人再生をする前に、連帯保証人としっかり話し合いをすることが大切です。
場合によっては、連帯保証人についても債務整理を検討する必要が生じますので、その際には、弁護士に相談をすることをおすすめします。
個人再生の手続きをご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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