夫の借金は妻に返済義務はある? 見つかった時の対処法は?

2024年06月18日
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夫の借金は妻に返済義務はある? 見つかった時の対処法は?

岐阜県の統計データ「岐阜県男女共同参画の現状と施策」によると2021年には、2578件の夫婦が離婚に至りました。

よくある離婚原因のひとつとして夫婦間の金銭問題が挙げられますが、原則として、夫個人の借金を妻が返済する義務はありません。しかし、借金の理由が結婚生活のためである場合(日常家事債務)や夫の債務の「(連帯)保証人」だったなどの場合は、返済義務が発生してしまいます。

離婚の際には、どのような借金に妻の返済義務があるのか、妻ができる対処法、法的な手続きである債務整理について知っておくことが重要です。ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。

1、原則として妻には夫の個人的な借金の返済義務はない

夫の個人的な借金に対して、原則、妻に借金の支払義務はありません。ただ、夫の借金である以上、自分にも影響がないか不安に思っている方も多いでしょう。

妻に返済義務がない理由や、離婚時の妻の財産に対する影響について解説します。

  1. (1)妻に夫の借金の返済義務がない理由

    妻には夫が個人的な理由でした借金の返済義務は原則としてありません。借金をしたのは夫であり、夫婦とはいえ、個人でした契約は契約者当人にしか効力はありませんしたがって、原則として妻に返済義務がないということになります

    なお、例外的なケースについては「2、妻が夫の借金の返済義務を負うケース 」で後述します。

  2. (2)夫が滞納しても妻の財産に影響はない

    夫の個人的な借金の返済状況が妻の財産へ影響することはありません。たとえば、夫の借金の滞納を理由として、妻名義の財産や給与が差し押さえられるなどは起こりません。

    もっとも、マイホームが夫名義の場合は家が差し押さえの対象になりますし、妻も連帯債務者になっている場合は妻自身の借金でもあるので、夫とともに一括返済を求められたりします。そのため、実生活には少なからず影響が生じる場合があります。

  3. (3)離婚時にも共有財産として財産分与されない

    離婚の際の財産分与では、原則として、夫婦で協力して作った財産を2分の1ずつ分配します。借金も財産分与において考慮されることはありますが、家庭のために支出したものではない夫の個人的な借金がある場合、原則として、共有財産から借金分が減額されたり、借金の半額を妻が背負うことになったりすることはありません。

    例えば、夫が趣味でパチンコに興じるために借金していた場合などは財産分与対象から外れるでしょう。
    一方で、同居していた自宅の住宅ローンなど、家庭のために背負った借金の場合は、財産分与において考慮されるでしょう。ただし、この場合でも、住宅ローンの残金を夫婦で分割して背負うわけではありません。住宅ローンが残っている場合の財産分与に関しては、どのような解決が適切かについて、複雑な考慮が必要になるので、弁護士に相談することをおすすめします。

2、妻が夫の借金の返済義務を負うケース

妻が夫の借金の返済義務を負うのは「日常家事債務」に該当する場合と「妻が保証人である」場合の2つです。具体的にどのようなケースが該当するのか、詳しく見ていきましょう。

  1. (1)借金の原因が日常家事債務に該当する

    「日常家事債務」とは、夫婦が共同生活をする上で通常生じる債務のことをいいます。

    たとえば、生活必需品の買い物や家賃の支払いをクレジットカードで行っていた場合の借金は、この「日常家事債務」にあたります。日常家事債務にあたる場合には、夫婦一方が契約したものであっても、夫婦両方がその債務を負うことになります(民法761条)。

    もっとも、この「日常家事債務」の範囲は、夫婦の社会的地位、職業、資産、収入、、などさまざまな事情によって異なります。そのため、一見「日常家事債務」に該当するようなものであっても、まずは弁護士に相談することをおすすめします。

  2. (2)夫の借金の保証人・連帯保証人になっている

    夫の借金の保証人もしくは連帯保証人に妻がなっている場合には、借金の返済義務を負うことになります

    たとえば、夫が主債務者として借りたカーローンや住宅ローンの保証人に妻がなっているケースです。この場合には、夫に返済応力がなくなった場合に限り、妻は保証人として返済義務を負うことになります。

    一方、妻が「連帯」保証人になっている場合には、特に注意が必要です。保証人とは異なり、夫に返済能力があるときでも、妻も返済義務を負うことになるからです。

    そのため、夫が返済を滞納するとクレジットカード会社や消費者金融からいきなり請求がきたり、請求を無視すると自分の給料や預金の差し押さえをされたりするおそれがあります。

    もっとも、保証契約が自分の意思で行ったものではなく、夫が勝手に印鑑などを持ち出して使用し、妻を保証人に立てて借金していた場合には、偽造になりますので、そのことを証明できれば、原則として保証契約が無効となり、返済義務を問われることはありません。ただし、特に実印の場合、無断持ち出しの事実を証明するのは容易ではありませんし、他にも事実関係の詳細な確認が必要になりますので、早期に弁護士に相談しましょう。

3、夫の借金が見つかった時に妻ができること

では、夫の借金が発覚したときに妻としてできることはあるのでしょうか。

  1. (1)借金の原因となるものを絶たせる

    夫の借金の原因が個人的なものであった場合、早急に絶たせるようにしましょう。たとえば、ギャンブルや高額商品の購入、行き過ぎたお酒の購入、FXや株などです。

    ただし、これらのケースでは、妻に隠れて多額の借金を作っている場合が多く、仮に借金を返済できたとしても、同様の借金を繰り返してしまうおそれがあります。

    なお、夫自身の協力が不可欠になりますが、金融機関からの借金を5年間制限する「貸付自粛制度」を利用すれば、新規の借り入れを制限できます。ただし、住宅ローンやスマホの端末の分割払い審査などにも影響が出るため、注意が必要です。

  2. (2)家計を見直す

    日常家事債務による夫の借金が発覚した場合は、家計を見直し、無駄遣いはないか確認してみましょう。

    また家計改善支援事業として相談窓口を設けている自治体もあります。ファイナンシャルプランナーや家計相談支援員から客観的な意見をもらうことで、家計改善へとつながる可能性もあります。

    ただし、生活費を借金してしまうケースでは、家計そのものがギリギリなケースも少なくありません。その場合は、収入源である仕事の見直しも並行して行いましょう。

  3. (3)妻の特有財産から返済する

    特有財産とは、婚姻前に築いた、もしくは相続などで得た個人の財産のことです。夫個人で借金の支払いができない場合には、妻の特有財産で返済することもひとつの方法になります。

    もちろん、妻の特有財産があったとしても、妻自身には返済義務はありませんので、妻自身に自己の財産から返済してもいいという意思がある場合に限られます。

    妻が立て替えた借金分を夫に返してほしいと思えば、将来的に請求することが可能です。もっとも、夫婦間の約束であっても、将来的に肩代わり分を返済してもらいたいならば、口約束ではなく、書面でその合意をして、肩代わりしたことと、その返済の約束をしてもらった証拠を残しておくべきでしょう。

  4. (4)夫の両親に相談する

    夫の両親に相談することも考えましょう。両親が借金を肩代わりしてくれれば、返済することができるかもしれません。また、立て替えてもらうだけでも、返済先が夫の両親になれば、消費者金融やクレジットカード会社からの借り入れの利息よりも、返済金額を少なくすることができ、返済期間の融通もききやすいでしょう。

  5. (5)妻が働いて返済を手伝う

    妻が専業主婦やパートであれば、働いたり労働時間を増やしたりして返済を手伝うという手段もあります。現在の夫の収入では、借金の返済ができないからこそ、滞納してしまっていると考えられます。

    この場合にも、夫の個人的な借金であれば、立て替えた分の請求が可能です。いくら夫の代わりに返済したか書面に残すようにしておきましょう。

    なお、借金の覚書や念書に特定の決まりがあるわけではありませんが、金銭を肩代わりした日付、名目、支払先、金額、返済日、互いの署名・印鑑は最低でも記載しておきましょう。作成に当たって不安な点がある場合は弁護士に相談することをおすすめします。

4、返済が厳しいと感じたら債務整理を検討する

夫の借金が高額で返済が難しい場合には、債務整理を弁護士に依頼することを検討してみましょう。債務整理には主に、① 自己破産、② 個人再生、③ 任意整理の3つの手続きがあります。

債務整理のメリットとして、弁護士が受任通知を債権者に送ることで、一時的に借金の返済が止まる点が挙げられます。借金の返済が難しいと感じたらすぐに弁護士に相談してみましょう。

それでは、各債務整理の方法について詳しく紹介します。

  1. (1)自己破産

    自己破産とは、借金の返済が不可能(支払不能)になったとして裁判所に申し立て、借金の返済義務を免除(免責)してもらう手続きです。消費者金融・クレジットカード会社の借り入れだけでなく、住宅ローンや自動車のローンも対象になります。

    ただし、自己破産の免責を認めてもらうには、支払不能であることに加え、ギャンブル等の借金や税金の未払い(非免責債権)でないなどの条件があります。また、夫名義の財産は、生活に最低限必要な財産を除いて、売却して債権者に分配すること対象となってしまうため、持ち家を失ったり、車を失ったりする可能性があります。慎重に検討し、弁護士に相談してみましょう。

  2. (2)個人再生

    個人再生とは、裁判所で再生計画の認可決定を受け、原則3年での完済を目指して、借金の大幅減額をしてもらう手続きです。自己破産とは異なり、借金の返済義務自体は残ります。しかし、住宅ローン特則という制度を利用すれば、マイホームに住みながら住宅ローンを返済し続けることが可能です。

    もっとも、綿密な再生計画を立て、多くの書類を提出するために労力が必要となりますし、減額の決定が出るまで時間がかかってしまうデメリットもあります。しかし、高額な借金があるが持ち家を失いたくない方にはメリットが大きい制度です。

  3. (3)任意整理

    任意整理とは、消費者金融やクレジットカード会社などの債権者と直接交渉することによって、将来かかる利息を減額したり、返済期間を延長したりする方法です。

    任意整理は、裁判所での手続きをする必要がないため、費用を抑えて、短い期間で行うことができる特徴があります。また、任意整理先を選ぶことができるため、財産を残しつつ、借金を減額できるといったメリットがあります。

    しかし、借金の状況や返済回数によっては、債権者が交渉に応じてくれない可能性もあります。また、3~5年以内の完済を条件に将来利息のカットをしてもらう方法では、借金額によっては負担の軽減効果が低い場合もあります。

    したがって任意整理は、一般的に利息が高い借り入れやリボ払いの場合に効果的な方法になります。

5、まとめ

借金は、基本的に個々人の契約になるため、妻が夫の個人的な借金を返済する義務はありません。しかし、夫婦である以上、生活費のための借金であれば妻も返済義務を負うことがありますし、(連帯)保証人になっていたというケースもあります。

自分が知らない間に夫が借金をしていたというのであれば、一度夫婦で話し合うことが必要ですまた、話し合いの結果、返済が難しいとなれば弁護士に債務整理を相談するようにしましょう

ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスにご相談いただければ、借金問題の解決実績がある弁護士が今後の生活も含めて一緒に解決策を考えます。借金や夫婦関係にお悩みがある方は、ぜひ当事務所にご相談ください。

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