遺言書の執行者はどのような役割がある? 必ず選任すべき?

2024年05月28日
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遺言書の執行者はどのような役割がある? 必ず選任すべき?

遺言書の作成時に、「正しく遺言の意志が実現するだろうか?」と不安に思われる方もいるかもしれません。そのような不安には、遺言執行者の選任が有効です。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するためのさまざまな手続きを行う人のことをいいます。特に、土地や建物、畑など多くの不動産がある場合や相続人同士の争いを回避したい場合には、遺言書の作成時に遺言執行者の指定もしておくことで、遺言の内容をスムーズに実現できるでしょう。

今回は、遺言執行者の役割や選任するとよいケース、誰に依頼すべきかなど、遺言執行者についてベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。

1、遺言書の執行者とは

遺言執行者とは、遺言内容を実現するために必要な、相続財産の調査から不動産登記の変更などの一切の事務を行う人をいいます

以下、具体的な役割や権限、執行者になれる人・なれない人について解説します。

  1. (1)遺言執行者の役割

    遺言執行者の主な役割は、以下のとおり① 相続人の確定、② 相続財産の調査、③ 財産目録の作成、④ その他事務の4つあります。

    ① 相続人の確定 相続開始後に戸籍謄本などを請求し、相続人を調査し確定する
    ② 相続財産の調査 財産目録作成のために、相続の対象となる財産を調査する。遺言書に書かれている財産だけでなく、相続の対象となるすべての財産を洗い出す
    ③ 財産目録の作成 相続財産を調査した内容に基づいて財産目録を作成する。作成した目録は、相続人に交付することが義務付けられている
    ④ その他事務 相続人からの問い合わせに応じたり、手続きの進捗を管理したりする。また相続財産の管理も行う

    表のように遺言執行者は、遺言と相続に関するさまざまな業務を行います。また「相続をするか、相続放棄するか」の意思表示には期限があるため、遺言執行者は、相続開始後、迅速に相続人を調査・確定し、手続きを進める必要があります。さらに、どのような財産が相続財産にあたるかも法的知識や経験が要求されます。

    このことから、遺言執行者には、弁護士など法律の専門家に依頼するのが安心といえるでしょう。

  2. (2)遺言執行者の権限

    遺言執行者には民法1012条によってさまざまな権限が与えられています。

    たとえば、遺言の内容に沿って

    • 印鑑証明書などが必要な預貯金の解約・払戻し
    • 口座の名義を特定の相続人に名義変更
    • 株式・不動産の名義変更
    • 家や土地など不動産の売却・相続人へ分配

    などをすることも可能です。

  3. (3)遺言執行者になれる人・なれない人

    民法1009条では「未成年者および破産者は遺言執行者になることはできない」とした欠格事由が定められています。18歳未満の未成年者は法律行為に制限があり、破産者に相続財産の管理を任せることはリスクが高いとみなされるからです。

    したがって、成人しており、破産者でない人は皆、遺言執行者になれる人ということになります。ただし、遺言執行者の業務では、法的な知識や実績が求められるシーンも少なくありません。そのため、一般的には弁護士などに依頼する場合が多くなります。

2、遺言書の執行者を選任するとよいケースと選任方法

遺言執行者を選任するとよいケースとしては、相続人同士の仲がよくない、相続人の認知能力が落ちている、遺言で認知をしたいなど、相続時に争いが起きやすいと予測できる場合が挙げられます。

また、特定の相続人から相続権をはく奪する相続人廃除をしたい場合も、遺言執行者の選定が有効となるでしょう。

  1. (1)遺言者が生前に遺言にて指定しておく

    まず、被相続人である遺言者が、遺言書に遺言執行者の名前を記載する方法があります。

    なお遺言執行者には人数制限がないため、何人でも遺言執行者を選任することができます。また、遺言執行者ごとに役割を指定することもできます。もし、役割の指定がされていない場合には、保存行為(遺産の維持管理等)を除いて、遺言の任務の執行は過半数で決めることになります。

    そのため、スムーズな遺言執行のためにも、誰にどんな役割をしてほしいのか、遺言執行者の名前と併せて記載しておくとよいでしょう。
    なお、遺言執行者に就任するかどうかは指定された人の自由な意思に委ねられていますので、あらかじめ内諾を得ておかないと、就任を断られてしまうかもしれません。

  2. (2)相続人等の利害関係人が家庭裁判所に申し立てる

    遺言執行者の選任がされていなかった場合には、相続人等の利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の申し立てをすることができます。

    申し立てる場合には、遺言者の最後の住所地の管轄家庭裁判所に行いますが、遺言者の死亡の記載のある戸籍をはじめ、さまざまな書類が必要となるため、まずは弁護士に相談するとよいでしょう。

3、第三者に遺言書の執行者をする場合の依頼先

第三者を遺言者の執行者をする場合には、主に①弁護士、②司法書士、③銀行の3つが考えられます。それぞれの特徴について簡単に紹介します。

  1. (1)弁護士

    弁護士は遺言の執行だけでなく、遺産分割協議や遺留分トラブルなど相続人間で争いが起きた場合にもサポートをすることが可能です。

    また、相続問題の実績がある弁護士であれば、相続財産の調査や財産目録の作成、相続財産の管理といったさまざまな面で速やかな手続きが可能なため、安心して任せることができるでしょう。

    費用は相続財産の額によりますが、日本弁護士連合会の報酬規程によると、下記のような金額となります(平成16年3月までの定め)。
    あくまで相場ですが下記の計算方法によって、おおよその依頼料が算出できます。

    相続額 依頼料
    300万円以下 30万円
    300~3000万円以下 相続額×2%+24万円
    3000万~3億円以下 相続額×1%+54万円
    3億円以上 相続額×0.5%+204万円
  2. (2)司法書士

    司法書士に依頼した方が弁護士に依頼するより費用が安く思う方もいるかもしれません。しかし司法書士に依頼した場合であっても、実際に支払う依頼料に大きな差がないケースも少なくありませんので、注意が必要です。

    また司法書士の場合、代理人として最後まで相続人間のトラブルに法的な対応ができるとは限りません。弁護士と司法書士で依頼先を迷っている場合には、ご自身の依頼内容と料金について相談した上で決めることをおすすめします。

  3. (3)銀行

    銀行に遺言執行を依頼するケースもあります。その場合、遺言信託プラン等の加入が必要です。銀行によってプラン料金が異なりますが、多くの銀行ではプラン加入時の申込手数料と実際の遺言執行報酬の2つの金額の支払いが必要になります。

    また、銀行に依頼したとしても、結局は銀行と契約している弁護士や司法書士に業務委託することになるため、費用が割高であることが多いです。

4、遺言書の執行者を弁護士に依頼するメリット

それでは、実際に遺言書の執行者を弁護士に依頼するメリットはどのようなものがあるのでしょうか。弁護士に依頼するメリットとして、以下の2つが挙げられます。

  1. (1)煩雑な手続きを任せられる

    一番のメリットとして、法律上の複雑で煩雑な手続きを任せられるというものがあります。

    相続の手続きは、期間の制限があったり、多くの書類が必要になったりと、個人で行うのは煩雑で手間がかかります。弁護士に依頼すれば、書類の収集・作成を一任することができ、負担が軽減できます。

    また、今後の手続きの流れについてアドバイスをもらうことはもちろん、誰がどのような財産を相続するか決定したあとにも、名義変更などの手続きをサポートしてもらうことも可能です。

  2. (2)トラブルが生じた際にスムーズに対応してもらえる

    相続人同士で、遺産の分配についてトラブルに発展してしまうケースもあります。そのような事態が起こった場合、弁護士は冷静な第三者として、遺言と法律に基づいた手続きを進めることができます。

    また、弁護士が相続人の間を取り持つことにより硬直していた話し合いが進んだり、親族間で直接やり取りをする必要がないため心身共に負担が軽くなることも期待できます。

5、まとめ

遺言執行者を決めておくことは、遺言を適切に実現してもらうために重要です。その際には、信頼できる遺言執行者の選任もとても大切です。遺言執行者は親族や知人を指定することもできますが、親族間トラブルの回避とスムーズな相続のためにも知見のある弁護士に依頼すると安心です。

ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスでは、遺言書作成のサポートはもちろん相続案件について実績がある弁護士が、お一人おひとりの事情に合わせたアドバイスをさせていただきます。まずはお気軽にご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています