相続が終わった後に「タンス貯金」が発見された場合の対応と注意点
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日本人は世界的にみてもタンス貯金の金額が大きい国民だといわれることがあります。「日本国民1人当たり平均約99万円のタンス貯金」をしているというデータもあります。
故人のタンス貯金を見つけた場合にも、相続財産に含まれる現金として、相続税の申告が必要になります。
本コラムでは、相続財産として申告する必要があるお金の種類や、申告しなかった場合のペナルティなどについて、ベリーベスト法律事務所 岐阜オフィスの弁護士が解説します。
1、タンス貯金は相続財産か?
「タンス貯金」とは、家庭内で保管されている現金のことを指す俗称です。タンスで保管していることを同居する家族が知っている場合に限らず、秘匿性の高い「へそくり」もこれに含まれます。また、タンス以外の場所(たとえば、金庫や貯金箱)に保管されていた現金も、保管場所が異なるだけで、「タンス貯金」と実質的に同じものです。
遺産相続において、相続に必要な手続が完了した後に故人の「タンス貯金」が出てくることがあります。
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(1)タンス貯金も相続財産として申告が必要
タンス貯金についても相続財産として申告が必要です。
相続税法は、「第一条の三第一項第一号又は第二号の規定に該当する者(※相続又は遺贈により財産を取得した者)については、その者が相続又は遺贈により取得した財産の全部に対し、相続税を課する。」(相続税法第2条1項)と定めています。
相続の効力は、民法に定めがあり、「相続人は、相続の開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とされています(民法第896条)。「一切の権利義務」には、被相続人が所有していた現金の所有権も含まれますから、相続人は、民法上の相続により、被相続人が所有していた現金という財産を取得した者に該当し、相続税を収める公法上の義務を負うことになります。 -
(2)申告しなかった場合のリスク
相続財産に含まれるタンス貯金について、相続税の申告をしなかった場合には、次のリスクがあります。
① 過少申告加算税(国税通則法第65条)
納税者が期限内に申告を行ったあと、税務調査を受けて申告税額よりも税額が多くなることがわかった場合には、その差額の10パーセント(ただし、差額が50万円を超える場合には、その超える部分について15パーセント)の過少申告加算税が課されます。
② 無申告加算税(国税通則法第66条)
納税者が期限内に申告を行わず、期限後に申告書を提出し又は決定があった場合、あるいは、期限後申告書の提出又は決定があった後に修正申告書の提出又は公正があった場合、納付する税額の15パーセント(ただし、納付すべき税額が50万円を超える場合には、その超える部分につき20パーセント)の無申告加算税が課されます。
③ 重加算税(国税通則法第68条)
納税者が課税価格又は税額等の基礎となるべき事実(※相続財産に含まれる現金の隠匿も含む。)の全部もしくは一部を隠蔽し又は仮装して申告したときは、過少申告加算税に代えて、対象税額の35パーセントの重加算税が課されます。
また、無申告加算税が課される場合に、重加算税が課される要件に該当するときは、無申告加算税ではなく、対象税額の40パーセントの重加算税が課されます。 -
(3)刑罰が科されるリスク
悪質な相続財産隠しであると判断された場合には、刑事罰が科される可能性もあります。
相続税法は、「偽りその他不正の行為により相続税又は贈与税を免れた者」は、「10年以下の懲役」もしくは「1000万円以下の罰金」が科されるか、またはこれらが併科されます(相続税法第68条第1項の「脱税犯」)。
また、修正申告書を提出期限までに提出しないことにより相続税を免れた者には、「5年以下の懲役」もしくは「500万円以下の罰金」が科されるか、またはこれらが併科されます(相続税法第68条3項の「ほ脱犯」)。
2、相続財産として申告する必要があるお金とは
相続財産として申告が必要になる現金の具体例は次のとおりです。
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(1)故人が自宅で長年保管していた現金
故人が自宅のタンスや金庫の中で保管していた現金は相続財産となります。
したがって、相続税の申告が必要です。
この際、漏れやすいのが「貸金庫の中の財産」です。
一般的に、銀行の貸金庫は、利用申し込みをすれば誰でも利用できます。
自宅での保管が不安な貴重品を貸金庫で保管する方も多いでしょう。
しかし、被相続人が亡くなったあと、相続人が貸金庫の存在を知らないまま、遺産分割協議が終わってからようやく貸金庫の存在が発覚するケースもあります。
この場合も、貸金庫の中の現金、有価証券、貴金属などは全て相続財産に含まれますから、相続税の申告対象に含める必要があります。相続人がこれらの存在にあとから気づくことについては、正当な理由があることがほとんどですから、修正申告を行えば、過少申告加算税、無申告加算税、重加算税が課される可能性は高くありません。
貸金庫は、相続財産隠しのために利用されることもありますから、税務署が目を光らせている可能性もあります。あとから見つかった場合には、とくに注意が必要です。 -
(2)亡くなる直前に金融機関口座から引き出された現金
金融機関に預金口座の名義人が亡くなった届出をすると、入出金の制限を掛けるのが一般的です。名義人が亡くなると、預金口座が全面的に凍結されると思って、亡くなる直前に親族が多額の現金を引き出すケースも少なくありません。このような場合に、必要な支払い(医療費、生活費など)をしたあとの残りの現金が保管されていれば、その現金も相続財産に含まれます。これらは、預貯金ではなく現金として、相続税の申告に含める必要があります。
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(3)財布の中にある現金
故人が所持していた財布の現金も、厳密には、相続財産の対象となります。数千円〜数万円程度の所持金は、事実上、相続財産に含めずに済ませてしまうこともあるかもしれませんが、複数の財布に多額の現金を保管している場合などは、そうするわけにもいきません。財布の現金であっても、過少申告加算税や重加算税の対象になることには、変わりないからです。
3、遺産分割協議が終わってからタンス貯金が発見されたら
遺産分割協議が成立した後に新たな相続財産が見つかった場合には、その相続財産についてのみ、新たに遺産分割協議を行うことができますし、相続財産全体についての遺産分割協議をやり直すこともできます。
この場合には、新たに見つかった相続財産を加えて、相続税の修正申告を行うのが原則ですが、従前の遺産分割協議から期間が空いている場合には、贈与税や所得税が課されることもあります。この場合は、税理士などの専門家に相談して対応を検討することが大切です。
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(1)タンス貯金のみを対象とする遺産分割協議
タンス貯金を除いた相続財産について遺産分割協議が成立したあとに、タンス貯金が見つかった場合には、多くの場合、遺産分割協議を最初からやり直す必要はありません。タンス貯金は現金ですから、タンス貯金を相続人で公平に分配できるからです。この場合は、タンス貯金のみを対象として、新たな遺産分割協議を行えば足ります。
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(2)遺産分割を最初からやり直す場合
相続人全員の同意を得て、遺産分割協議を合意解除したうえで、遺産分割を最初からやり直すことも可能です。ただし、従前の遺産分割が調停や審判で行われた場合は、特別な事情がない限り、その効力を否定することができません。たとえば、タンス貯金が高額な場合など、「その遺産の存在を初めから知っていたら以前のようには遺産分割をしなかった」といえる場合には、遺産分割協議が錯誤(民法第95条)にあたり、取消し(改正前の民法の対象となる場合には無効)の対象になります。
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(3)遺産分割をやり直した場合には税金に注意
遺産分割を最初からやり直す場合、従前の遺産分割協議から時間が空いていると、相続人が取得した財産の処分にあたるものとして、譲渡所得税が課されることもあります。その点には注意が必要です。
4、トラブルになりそうなときは弁護士に相談を
タンス貯金は秘匿性が高く、同居する親族でもタンス貯金の存在を知らないケースがあります。あとからタンス貯金が見つかった場合には、遺産分割に関する対応のほか、相続税に関する対応も必要になります。この場合に対応を誤ると、新たな相続トラブルを招くこともあります。
このような事態を避けるためにも、弁護士に相談することが大切です。とくに、税理士と連携している弁護士や、税務に通じている弁護士に相談すれば、本コラムで紹介した問題にも上手に対処できるでしょう。
5、まとめ
タンス貯金を相続した場合の取り扱いについて解説しました。
タンス貯金の金額を除いて相続の申告をすると、税金に関するペナルティや、相続人間のトラブルが生じる可能性があります。
ベリーベスト法律事務所グループには税理士法人も含まれており、遺産相続に関する手続きやトラブルについても、弁護士と税理士が連携してきめ細かく対応いたします。
相続手続きに不安な方や、相続に関連した税金トラブルを回避したいという方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。
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